
外食産業がアジアへ進出するときのポイント|日本食需要や各国の動向
近年、飲食業界においてアジア市場への進出を図る日本企業が急増しています。背景には、経済成長による中間層の拡大や、健康志向・日本食ブームなど、アジア各国での外食需要の高まりがあります。一方で、海外進出には「現地の商習慣や嗜好の違い」「人材・食材の確保」「オペレーション管理」など、多くの課題やリスクが伴うため、成功の可否を分ける要因を見極めることが重要です。
当記事では、アジア市場の外食トレンドや各国の日本食人気の動向を踏まえ、成功企業の共通点や今後の展望を分かりやすく解説します。アジア進出を検討している外食企業の方は、持続的な成長戦略を考える上でのヒントにしてください。
1. 外国における日本食レストランの数

2023年時点で、海外の日本食レストランは約18.7万店に達し、2021年から約2割増加しました。特にアジアでは、新型コロナの規制緩和や日本食人気の高まり、日系チェーンの進出が進んだことで約2割の伸びを記録しています。欧州でも日本食需要の拡大と企業の出店が続き、同様に約2割増となりました。
一方で、北米ではコロナ禍の影響により約1割減少したものの、中南米では日本アニメの影響や調査精度の向上により約2倍に急増しています。
| 地域 | 2023年度店舗数 | 2021年度店舗数 | 増減率・変化 |
|---|---|---|---|
| アジア | 約122,000店 | 約100,900店 | 約2割増 |
| 欧州 | 約16,200店 | 約13,300店 | 約2割増 |
| 北米 | 約28,600店 | 約31,200店 | 約1割減 |
| 中南米 | 約12,900店 | 約6,100店 | 約2倍 |
| ロシア | 約3,200店 | 約3,100店 | 横ばい |
| 中東 | 約1,300店 | 約1,300店 | 横ばい |
| アフリカ | 約690店 | 約700店 | 横ばい |
| 大洋州 | 約2,500店 | 約2,500店 | 横ばい |
(出典:農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)の公表について」/https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kikaku/231013_12.html)
1-1. アジアにおける日本食レストランの数
アジア圏では、日本食レストランが集中している国と、まだ発展途上にある国との二極化が見られます。中国は約7万8,000店と圧倒的に多く、都市部を中心に寿司やラーメンなどの多様な業態が広がっています。次いで韓国が約1万8,000店、台湾が約7,400店と続き、いずれも日本文化への親和性が高い地域です。
また、タイやインドネシア、ベトナムなどの東南アジア諸国でも、中間層の拡大などにより店舗数が増加傾向にあります。対照的に南アジア諸国ではまだ数百店規模にとどまり、今後の市場成長が期待されます。
| 国・地域 | 店舗数 |
|---|---|
| インド | 410 |
| インドネシア | 4,000 |
| カンボジア | 280 |
| シンガポール | 1,210 |
| スリランカ | 40 |
| タイ | 5,330 |
| 韓国 | 18,210 |
| 中国 | 78,760 |
| ネパール | 60 |
| パキスタン | 20 |
| バングラデシュ | 30 |
| フィリピン | 760 |
| ブルネイ | 40 |
| ベトナム | 1,620 |
| マレーシア | 1,890 |
| ミャンマー | 80 |
| モルディブ | 40 |
| モンゴル | 50 |
| ラオス | 50 |
| 台湾 | 7,440 |
| 香港 | 1,400 |
| マカオ | 310 |
(出典:農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)の公表について」/https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kikaku/231013_12.html)
2. アジア各国の日本食についての動向

アジア各国では日本食ブームが年々拡大しており、現地の食文化に溶け込みながら多様な形で飲食店が発展しています。ここでは、主要国ごとの日本食に関する動向を紹介します。
2-1. 中国
中国では日本旅行ブームやアニメ・ドラマの影響により、日本の食文化や調理法への理解が進んでいます。上海・北京・広州・深圳といった経済都市では日本料理店が1万店近くに達しており、中でも上海は約3,700店と最多で、国際都市として多様な日本食業態が定着しました。
かつては高級志向が主流でしたが、近年はラーメンや丼、居酒屋などのカジュアルな店舗も増加し、日系チェーンも好調で日本食の大衆化が進んでいます。一方、内陸部では現地料理文化が根強く、店舗数は少なめです。日系スーパーの存在も日本食品の普及に寄与しており、中国における日本食市場は今後も拡大が見込まれます。
(出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「海外有望市場商流調査(中国)」/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2022/36177d79e5c45062/202203.pdf#page=15)
2-2. 韓国
韓国では日本食が定着し、寿司・とんかつ・ラーメンなどの定番料理から、すき焼き、喫茶メニューまで多様な日本食が親しまれています。中でも、ソウルの聖水洞(ソンスドン)や延南洞(ヨンナムドン)では、日本の味を忠実に再現する店舗が急増し、若者文化と融合した日本食街として人気を集めています。
日本食が人気となっている理由は、新鮮でヘルシーなイメージや、繊細な盛り付けの美しさが支持を集め、健康志向の高まりも追い風となっているためです。「おまかせ」「塩パン」「ハイボール」などの日本語がそのまま定着するほど、日本文化への関心も深まっています。
2-3. タイ
タイでは日本食レストランの数が年々増加しており、2024年時点で5,916店舗と、前年比2.9%の伸びを示しています。バンコクやその近郊だけでなく地方都市にも拡大が進み、そば・うどんや喫茶、居酒屋といった業態が特に好調です。一方で、寿司店は競争激化によりやや減少傾向にあります。
日本食レストラン増加の背景には、タイ国内で日本食がすでに定着していること、訪日経験のあるタイ人が増えて本格的な味を求める層が拡大していることが挙げられます。日本食は「健康的で高品質な食」として支持され、タイの外食市場拡大の一翼を担っています。
(出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「タイの日本食レストランは5,916店舗、前年に続き増加、ジェトロ調査」/https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/01/73a4aa90dbaaa166.html)
2-4. インドネシア
インドネシアでは若年層を中心に日本食人気が高まり、首都ジャカルタだけで約1,300軒の日本食レストランが存在します。多くの日系チェーンが展開しており、都市部を中心に日本食が日常的に楽しまれています。
原材料は米や野菜、鶏肉などを現地調達する一方、調味料や鮮魚などは日本・第三国から輸入され、本格的な味を再現している企業が多い傾向にあります。インドネシア市場は日本食の大衆化と品質向上の両面で成長を続けており、今後もアジア進出の有望地として注目されています。
(出典:Journal of Japan Academy for Asian Market Economics 24: 47-5「日系外食企業のインドネシア事業」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafame/24/0/24_47/_pdf/-char/ja)
3. 外食産業がアジアに進出するときのポイント

外食産業がアジア市場に進出する際は、単に「日本食ブーム」に乗るだけでは成功できません。以下では、海外店舗を出すときに押さえるべき3つのポイントを紹介します。
海外進出では最初の戦略によって、その後のブランド浸透や成長スピードが変わってきます。どの国・都市に出店するのか、どの業態を展開するのか、独資・合弁・フランチャイズのいずれで進出するのかなど、事業計画と初期判断が重要です。現地パートナーを選定する際は、運営力や信頼性を慎重に見極める必要があります。
国や地域によって味覚や食文化は大きく異なります。現地の嗜好に合わせてメニューを調整したり、辛味や量を変えたりする「ローカライズ」が受け入れられるポイントの1つです。一方で、あえて日本らしさを残す「標準化」も差別化につながります。現地文化を理解し、柔軟に対応しながらブランド価値を維持することが求められます。
多店舗展開を見据えるなら、食材の調達・加工・配送体制、店舗開発、人材育成の3つを構築する必要があります。中でも、現地の物流環境に合わせたセントラルキッチンの整備や、店長候補の育成・定着が大きな課題となります。現地スタッフを長期的に育てる仕組みを整えることで、安定的な事業運営が実現するでしょう。
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(出典:日本商業学会『流通研究』第15巻第2号「外食グローバル化のダイナミズム:日系外食チェーンのアジア進出を例に」/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmd/15/2/15_3/_pdf)
4. 外食産業のアジア進出成功事例
日本企業の外食事業は、現地文化への柔軟な対応と高品質なサービスを武器に、アジア各国で成功を収めています。ここでは、味のローカライズや効率的な物流・人材育成など、各企業が経営戦略に工夫を凝らして成長を遂げた事例を紹介します。
4-1. 株式会社サイゼリヤ
サイゼリヤは2003年に中国・上海へ初出店して以降、順調に事業を拡大し、中国大陸で約450店舗以上を展開するまでに成長しています。低価格でありながら高品質なイタリアンを提供するという明確な戦略が、中国の消費者に支持されている大きな理由です。
広州市にはセントラルキッチンを設置し、ソースやピザ生地などを集中生産することで、品質とコストの両立を実現しています。また、地域の嗜好に合わせて味付けを調整するなど「ローカライズ戦略」も徹底しています。
(出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「行列のできるサイゼリヤ(中国)」/https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2024/25b97c969dcd86cb.html)
4-2. 重光産業株式会社
熊本発のとんこつラーメン「味千ラーメン」を展開する重光産業株式会社は、フランチャイズ方式を軸に中国を中心とした約13の国と地域で約700店舗以上を展開しています。進出当初は現地化に寄せすぎた結果、ブランド本来の味が失われるという課題に直面しましたが、「味の基本を守る」という方針を貫いて香港で成功を収めました。
その後、中国全土に展開を広げ、麺やスープは日本から輸出しつつ、野菜などは現地で調達することで品質とコストの両立を実現しています。価格を15~23元に抑えることで、幅広い層から支持を集めています。
(出典:J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]「「味千ラーメン」世界にFCで1000店を狙う九州のラーメン店」/https://j-net21.smrj.go.jp/special/sells04/201304041201.html)
4-3. トリドールホールディングス
トリドールホールディングスは、「丸亀製麺」や「ラー麺ずんどう屋」などを展開し、海外で約843店舗を運営しています。同社は食の感動体験を世界に広げる「KANDOトレードオン戦略」のもと、現地パートナー「ローカルバディ」との連携を軸に各国で成功モデルを構築しています。
過去の失敗を教訓に、現地の嗜好や文化を深く理解する企業と協業し、商品開発から店舗運営までを共同で進める体制を確立しました。今後は「ラー麺ずんどう屋」や「肉のヤマ牛」など、複数ブランドを展開する海外事業戦略をさらに強化していく方針です。
(出典:株式会社トリドールホールディングス「真のグローバルフードカンパニーを目指すトリドールHDの海外展開」/https://www.maff.go.jp/j/shokusan/kikaku/jizoku/attach/pdf/index-89.pdf)
まとめ
アジアでは日本食の人気が高まり、寿司やラーメン、うどんなど、さまざまな和食が現地文化に溶け込みながら発展しています。成功企業に共通するのは、現地の食文化や嗜好を理解しつつ、日本の品質とサービスを保ち続けている点です。今後、海外進出を目指す外食企業は、「現地理解」「品質維持」「柔軟な経営体制」といった成功要因を意識することで、持続的な成長につながる大きなチャンスをつかむことができるでしょう。
また、外食チェーンの多店舗経営や海外展開には、店舗運営の効率化とデータの可視化も必要です。クオリカの「TastyQube Growth(テイスティーキューブグロース)」は、売上・食材・勤怠管理を一元化し、国内外の店舗を本部から統合管理できる外食業向けDXソリューションです。既存機器とのスムーズな連携や多言語対応も実現しており、海外展開の効率化を強力にサポートいたします。


