catch-img

日本企業の海外進出の現状と傾向|景況感や今後の展望・課題を解説

日本企業の海外進出は、成熟した国内市場を背景に今なお拡大を続けています。日本企業は、現地での生産拠点や販売網の拡大を通じて、需要の多様化に対応しています。とりわけ製造業では輸送機械や化学分野、非製造業では卸売業やサービス業の比率が高く、グローバルな事業基盤を形成しています。


一方で、地域ごとに景況感や課題は異なり、インドやベトナムでは好調が続く一方、中国では景気減速や政策リスクが影響しています。当記事では、日本企業の海外進出の現状と課題について解説します。

1. 日本企業の海外進出数

日本企業の海外進出数

日本企業の海外展開は年々拡大を続けています。経済産業省「海外事業活動基本調査(2023年度)」によると、日本企業の海外の拠点数は24,415拠点に達しています。

【国別・海外進出企業の拠点数(2023年度)】

地域

拠点数 割合(%)
全地域  24,415   100.0
 北米  3,079  12.6
 アジア  16,547  67.8
  中国  6,900  28.3
  ASEAN10  7,263   29.7
 その他アジア  2,384  9.8
 欧州  2,709  11.1
 その他    2,080  8.5

 (出典:経済産業省「海外事業活動基本調査 第54回 調査結果(2023年度実績)」/https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000040281896

 

地域別ではアジアが全体の約68%を占め、特にASEAN諸国と中国に集中しています。アジア地域では中間層の拡大や市場成長が続いており、日本企業にとって重要な戦略拠点となっています。

 

その他にも北米には3,079拠点(12.6%)、欧州には2,709拠点(11.1%)が展開しており、製造・販売・物流など幅広い業種で国際展開が進んでいます。

 

1-1. 【産業別】海外進出している日本企業の数

海外に拠点を持つ日本企業は全産業で24,058社にのぼり、そのうち製造業が10,173社、非製造業が13,885社となっています。

 

【海外進出している日本企業の総数(2023年度)】

 業種

 法人数
全産業  24,058
製造業   10,173

食料品

 489
繊維   366
木材・紙・パルプ  187
化学  989
石油・石炭  39

窯業・土石 

 207
鉄鋼  288
非鉄金属  332
金属製品  621
はん用機械  451
生産用機械  798
業務用機械   361
電気機械   629
情報通信機械   855

輸送機械  

 2,154
その他の製造業   1,407
非製造業   13,885
農林漁業  80
鉱業  118 
建設業  404 
情報通信業  740
運輸業  1,327
卸売業  6,955
小売業  700
サービス業  2,484
その他の非製造業  1,077

 (出典:経済産業省「海外事業活動基本調査 第54回 調査結果(2023年度実績)」/https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000040281896

製造業では「輸送機械」が2,154社と最も多く、「化学」(989社)、「情報通信機械」(855社)が続きます。非製造業では「卸売業」が6,955社と突出しており、「サービス業」(2,484社)、「運輸業」(1,327社)も主要分野です。

 

製造業は生産拠点、非製造業は流通・販売拠点としての展開が中心であり、アジアをはじめとした新興国市場の成長に合わせて事業多角化が進んでいます。

 

1-2. 海外進出している日本企業の景況感

日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、海外進出企業の36.7%が「業績が改善」と回答し、「悪化」は26.2%にとどまりました。 地域別ではインド、ブラジル、メキシコ、ベトナムなどを中心に好調な傾向が見られます。一方で、中国は「悪化」が42.2%と最も高く、景況感の低下が顕著です。

【海外進出をした日本企業の景況感(2024年)】

地域・国

改善(%) 横ばい(%) 悪化(%)
 全地域計  36.7  37.1  26.2
 インド  55.0  33.6  11.4
 ブラジル  53.0  31.3  15.7
 メキシコ  49.1  30.1  20.8
 ベトナム  48.8  34.3  16.9
 南アフリカ共和国  42.1  34.2  23.7
 UAE

40.3

 46.8  12.9
 インドネシア  38.4  34.8  26.7
 シンガポール  37.8  40.8  21.5
 米国  37.7  35.8  27.5
 韓国  34.8  38.0  27.2
 オーストラリア  32.9  36.9  30.2
 英国  32.0  41.3  26.7
 フランス  30.9  54.5  14.5
 香港  30.2  43.0  26.7
 タイ  29.9  37.8  32.4
 ドイツ  28.6  42.0  29.4
 オランダ  26.2  41.0  32.8
 中国  24.5  33.3  42.2

 (出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度 海外進出日系企業実態調査|全世界編」/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2024/3fd8ebc050295428/survey.pdf#page=8

 

インドや東南アジアでは内需拡大やサプライチェーン再編が追い風となり、製造・販売の両面で成長期待が続いています。全体として日本企業の景況感は緩やかに改善傾向にあり、アジアを中心に積極的な事業展開が進んでいます。

 

1-3. 主要な進出国における景況感の傾向

日本貿易振興機構(JETRO)の調査によると、景況感はインド・ブラジル・ベトナムで改善傾向、中国で低下傾向が続いています。 インドは2022年以降高水準を維持し、旺盛な内需とインフラ投資の拡大が成長を支えています。

 

一方、中国はここ数年低迷が続いており、需要減退や規制強化が影響していると言われています。総じて、新興国中心に成長期待が高まる一方、中国依存からの脱却が進む構図が明確になっています。

 

【主要4か国の景況感の推移】

 年

インド

 ブラジル  ベトナム 中国

 

2022

 

 51.3  27.5  25.0  -15.1
 2023  44.4  31.5  -3.7  -14.7
 2024  43.6  37.3  31.9  -17.7

 (出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度 海外進出日系企業実態調査|全世界編」/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2024/3fd8ebc050295428/survey.pdf#page=9) 

2. 海外進出した日本企業の今後の展望

海外進出した日本企業の今後の展望

日本貿易振興機構(JETRO)の2024年度調査によると、今後1~2年の事業方針としては、「現地事業を拡大」と回答した企業が45.2%に達し、撤退を見込む企業はわずか1.0%でした。特にインド(80.3%)やブラジル(65.1%)で拡大意欲が高く、持続的な市場開拓や製品多角化への投資姿勢が強まっています。対照的に、中国は21.7%と過去最低を更新し、慎重な姿勢がうかがえます。

【地域別・今後の事業規模についての調査(2024年)】

  国・地域  拡大(%)  現状維持(%)  縮小(%)

 第三国(地域)へ移転・撤退(%)

 全地域計  45.2  49.0  4.8  1.0
 インド  80.3  19.1  0.6  0.0
 ブラジル  65.1  27.7  4.8  2.4
 UAE(アラブ首長国連邦)  60.2  37.5  1.1  1.1
 ベトナム  56.1  40.7  2.8  0.5
 韓国  55.9  41.9

 2.2

 0.0
 南アフリカ共和国  54.2  43.8  2.1  0.0
 オランダ  54.1  44.3  1.6  0.0
 メキシコ  50.9  46.2  2.9  0.0
 オーストラリア  50.3  48.4  1.3  0.0
 ドイツ  49.6  44.7  4.9  0.8
 米国  48.6  46.5  4.2  0.7
 インドネシア  47.3  49.9  2.8  0.0
 英国  42.7  53.3  2.7  1.3
 シンガポール  42.5  52.7  2.9  1.9
 フランス  37.5  58.9  0.0  3.6
 タイ  34.1  60.9  4.5  0.6
 中国  21.7  64.6  12.3  1.4
 香港  12.7  76.2  10.5  0.6

 (出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度 海外進出日系企業実態調査|全世界編」/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/9414c66b08fc05a1/20240022.pdf#page=13

 

業種別に見ると、製造業では「食品・農水産加工品」「医療機器」などが約7割の企業で事業拡大を計画しており、現地需要に対応した高付加価値製品の展開が進んでいます。対して、「輸送用機器」や「鉄鋼」などは30%前後と低く、成熟市場での競争激化が課題です。

 

 【業種別・製造業の今後の事業規模についての調査(2024年)】 

 業種  拡大(%) 現状維持(%)  縮小(%)   第三国(地域)へ移転・撤退(%)
 製造業  43.1  50.7  5.2  -
 「拡大」割合が高い上位6業種    
 食品・農水産加工品 70.9 26.5 0.9

1.8

 医療機器  70.9  27.3  0.0  1.8
 化学品・石油製品  54.9  42.7  2.0  0.4
 医薬品  54.3  41.3 2.2   2.2
 電気・電子機器  52.9  40.1  6.4  0.5
 一般機械  44.4  51.3  4.0  0.3
 「拡大」割合が低い下位6業種    
 輸送用機器(自動車等) 32.7

62.5

3.8

1.0

 ゴム製品  32.1  56.0  11.9  0.0
 鉄鋼  31.3  64.6  4.2  0.0
 輸送用機器部品(自動車等)  30.8  58.3  9.9  1.1
 衣服・繊維製品  27.8  61.0  5.1  6.2
 窯業・土石  26.4  62.3  5.7  5.7

 (出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度 海外進出日系企業実態調査|全世界編」/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2024/3fd8ebc050295428/survey.pdf#page=15

非製造業では「人材紹介・派遣(71.4%)」「小売(54.4%)」「通信・IT(53.6%)」が拡大傾向にあり、サービス産業の現地化が加速しています。 

 【業種別・非製造業の今後の事業規模についての調査(2024年)】

 業種  拡大(%) 現状維持(%)  縮小(%)   第三国(地域)へ移転・撤退(%)
 非製造業

46.9

47.6 4.4 1.1
 「拡大」割合が高い上位6業種    
 人材紹介・人材派遣

71.4

 28.6

0.0 

0.0
 電気・ガス等 57.4  40.7  1.9  0.0 
 小売 54.4  42.6  2.9  0.0 
 通信・IT等 53.6  41.2  4.4 

0.7 

 法務・会計・税務等 51.8  41.1   7.1 0.0 
 商社 50.9  45.0  3.1  1.0 
 「拡大」割合が低い下位6業種    
コンサルティング 44.8 48.3 6.0

0.9

 運輸・倉庫 44.6  49.7  5.5  0.2 
 銀行 42.9  52.7  4.4  0.0 
 その他 41.9  53.7  3.6  0.9 
 ホテル・旅行 40.8  55.3   1.3 2.6 
 建設・プラント等  32.2 54.3  11.2  2.2 

(出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)「2024年度 海外進出日系企業実態調査|全世界編」/https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2024/3fd8ebc050295428/survey.pdf#page=15

同時に、競争環境の厳しさも増しており、コスト競争力を強みに持つ他国企業との戦いが激化している現状もあります。こうした中で日系企業が注力しているのは、「営業・広報の強化」(40.2%)や「製品・サービスの多角化」(33.8%)といった付加価値型戦略です。


短期的な収益だけでなく、中長期的なブランド浸透や現地ニーズ対応が今後の成長に影響する可能性があります。

 

3. 海外進出する日本企業の課題と解決策

海外進出する日本企業の課題と解決策

海外展開では、競争激化、文化・商習慣の違い、ヒト・モノ・カネ・情報の不足が壁になります。ここでは、海外進出において企業が直面しやすい課題と対策を詳しく解説します。

 

3-1. 地場企業やグローバル企業との競争

海外市場では、現地企業や欧米・中国などの大手企業との競争が激しさを増しています。価格だけで勝負すると不利になりやすく、現地企業のネットワークやスピードに押されるケースも少なくありません。

 

このような環境では、現地のパートナー企業と連携して参入障壁を下げることが効果的です。販売代理店やサプライヤーと協力し、販売網や顧客接点を共有すれば、信頼を得やすくなります。

 

また、自社の強みを生かし、製品だけでなくアフターサービスやサポート体制を整えることも差別化につながります。同時に、現地語での広報や営業活動を強化し、ブランド認知を高める工夫も行いましょう。単なる価格競争から脱却し、品質や信頼で選ばれる立ち位置を確立することが求められます。

 

3-2. 現地の商習慣や文化の理解不足

文化や商習慣を十分に理解せずに進出した結果、現地で受け入れられないという失敗は少なくありません。製品の仕様や価格設定、販売方法がその国の価値観や生活スタイルに合っていない場合、ビジネスは思うように広がりません。

 

解決策としては、海外進出の際には事前に十分な市場調査とテストマーケティングを行いましょう。現地の消費者の嗜好を把握し、試験的に販売して反応を確かめることで、リスクを抑えながら改良が進められます。

 

また、進出国の商工会議所やコンサルティング会社と協力すれば、最新の市場データや文化的背景を理解しやすくなります。現地人材を積極的に採用し、意思決定に参加してもらうのも効果的です。現地の声を取り入れる姿勢こそが、長期的な信頼の構築につながります。

 

3-3. リソースの不足

海外事業では、人材・資金・情報などのリソース不足が大きな課題です。国内業務と兼任の体制では、海外市場の変化に迅速に対応できないこともあります。特に中小企業では、経験豊富な人材を確保するのが難しいという悩みが多く見られます。

 

リソース不足を解消するためには、グローバル人材の育成とデジタル化の推進を進める必要があります。若手社員を海外研修に派遣し、現地の商習慣やビジネス文化を学んでもらって将来の人材を育てたり、ITツールを活用して在庫管理や顧客対応などを自動化し、少ない人員でも効率的な運営を可能にする対応を調えたりなど、さまざまな工夫が必要です。

 

内部体制と外部リソースを組み合わせることで、限られた資源でも持続的な海外展開を実現できるでしょう。

まとめ

海外に拠点を持つ日本企業は年々増加し、特にアジアを中心に事業拡大の動きが加速しています。インドや東南アジア諸国では内需拡大やインフラ整備が進み、新たな市場機会が生まれています。一方で、中国では規制強化や需要低迷により事業環境が厳しさを増しています。

 

こうした環境の中で、日系企業は製造・流通・サービスなど幅広い分野で現地化と多角化を進め、地域特性に合わせた戦略を模索しています。今後の成長を左右するのは、品質や信頼を基盤としたブランド力に加え、データと現場を結ぶDXの推進です。

 

クオリカの「TastyQube Growth(テイスティーキューブグロース)」は、売上・食材・勤怠データを統合し、国内外の店舗を本部からリアルタイムで管理できる外食業向けソリューションです。多言語対応と現地サポート体制により、グローバル展開の生産性向上と経営の見える化を強力に支援しています。

>カテゴリ
>新着
>月間アーカイブ

 海外出店にご興味がある方はこちらから
ページトップへ